小児でのインフルエンザワクチン接種の目的と有効性
小児科領域における予防接種の意義は、インフルエンザにかからないようにするというよりも、乳幼児に多い脳症を予防するということに重点がおかれてきました。というのは、脳症の患者さんのほとんどがワクチンを打っていなかった人だったというデータがあったからです。しかしその後、ワクチンを接種していても脳炎を起こしたという方の報告もあり、予防接種をすれば必ず脳炎脳症が防げるという単純な表現はできなくなってきました。
しかし、有効率(インフルエンザにかかることをどのくらい減らすか)は、ウイルス分離法で診断した場合有効率60%、抗体価で検討したデータでは有効率40%程度、最近は迅速診断を利用して正確な診断をもとにして有効率を検討することもできますので、その結果をみても、30~50%の有効性があると考えられます。
また、脳症は、インフルエンザの診断ができないうちに脳症の症状がはじまることもあり、抗インフルエンザ薬も有効とは言われておりません。ですから、脳症に対してもある程度の有効性がある(インフルエンザにかかるリスクを減らせる)と考えられるのは、今のところインフルエンザワクチンだけということで、日本小児科学会でも接種することを推奨しています。
なお、脳症の発生数は、最近は多い年でも年間200人くらいです。その中では1~3歳ぐらいの児に比較的集中していますので、そのあたりの年齢の児にとっては、かからないということ以上に大切なことかもしれません。
米国では、健康であっても、6ヶ月~5歳未満の小児には、接種を推奨しています。
もう少し上の年齢層はどうでしょうか。昨年罹患していれば、今年は必要ないかなと思ってしまう人も多いと思いますが、インフルエンザは型が何種類かありますから、そういうわけではありません。確かに、昨年かかった型には、今年はかかりにくいということは言えますが、せっかくかかって獲得した免疫をもう一度思い出し、免疫を持続させるような目的もあって予防接種を受けるというようなイメージでも良いと思います。毎年コツコツ続けていくことが、翌年のことというよりも長期的にプラスになると思います。
国内における研究報告
日本ワクチン学会の資料からの引用ですが、
- 65 歳以上の高齢者福祉施設に入所している高齢者については 34~55%の発病を阻止し、82%の死亡を阻止する効果があったとされています。
- 6歳未満の小児を対象とした 2013/14~2017/18 シーズンの研究では、発病防止に対するインフルエンザワクチンの有効率は 41~63%と報告されています。
- 3歳未満の小児を対象とした 2018/19~2019/20 シーズンの研究では、発病防止に対するインフルエンザワクチンの有効率は 42~62%と報告されています。